犬のしつけには首輪? それとも胴輪??

首輪とハーネス、どちらの方がトレーニングしやすいのでしょう。インターネットで検索してみると・・・

・首輪の方が、犬の行動を制御しやすい。

・首輪の方がハーネスよりも、飼い主の意思を伝えやすい。

・首輪の装着の位置を耳の後方あたりにすると、より人からの合図が伝わりやすい。

・首輪の方が、犬が引っ張った時に犬が苦しくなるので、引く力を弱めてくれる。

などなど、首輪を使ったことによる経験談が沢山でてくるので、一見、首輪の方が使いやすそうです。しかし犬によっては、振り回され制御できない、首が苦しくなろうとも一向に力を弱めてくれないなど、効果を感じられないこともあります。

結論からいうと、犬のしつけにはモチベーションが関わりますから、首輪、胴輪、どちら使っても構いませんし、TPOに応じて使い分ければ良い。そして何より一番大切なことは、犬の体に負担をかけなことと、人が“らく”になれるアイテムを選択することです。

現代の犬のしつけは、行動学に基づき脳科学や学習理論を応用して行いますので、昔ながらの『人と犬の上下関係を分からせるようにしつけをする。』という考えは時代遅れです。

人でも犬でも心地良い(メリットになる)結果が伴えば次もまた繰り返そうとし、心地悪い結果が伴えば、繰り返すのは止めようとする。どんな動物でも、そのようにして生きるための行動パターンを身につけます。

つまり犬のしつけがうまくいくかどうかは、いかに犬にとってメリットになる結果を用意できるか。言い換えるならトレーニングの後に、人から与えてもらえるご褒美が犬にとって欲しいもの(して欲しいもの)か、欲しくないもの(して欲しくないもの)かに関わってくるということです。すなわちしつけには、犬のモチベーションが大切なのであって、首輪か胴輪のどちらの方がしつけがしやすいか、という議論とは論点が異なるのです。

犬のしつけをする上で、モチベーションの次に大切になるのは、犬の動きをどのように導き(以下、コントロールという)、タイミング良く褒めるか、ということです。コントロールがうまくいかなかったり、タイミングがずれてしまっては、犬のしつけはうまくいきません。

大型動物、例えば、牛の場合には鼻輪に、そして馬の場合には口の下や横にリードを引っ掛けて動きをコントロールします。なぜなら、人よりもはるかに体重の重い動物の場合には、体の先端にリードをつけることで、進行方向が変えやすくなり、結果的に動きを止めやすくなるからです。

では犬はどうでしょう。大型の動物に比べ体の小さい犬は、人が立ち止まるだけで動きを止められますから、わざわざ体の先端にリードを付けなくても、首輪や胴輪のどちらでも十分に対応できます。しかし大型犬の場合には、人が立ち止まるだけで動きが止められず、転んでしまうこともあります。

そこで人が考え出した次なる発想は、『首が苦しい状態になれば、犬の動きが止めやすくなる。』というものです。この嫌悪感を用いるとしたら、『肋骨部分を覆っている胴輪よりも、首を締める首輪の方が効果的なんじゃない?』。さらに、強く首にショック(嫌悪刺激)を与えるために、『チョークチェーンカラーやピンチカラー(スパイクカラー・プロングカラー)などを使うといいじゃない?』という発想が生まれてきたのです。

犬の首に嫌悪感を与えて動きを制御することには、犬の体を痛める、犬の攻撃行動を悪化させる、減らしたい行動を逆に増やしてしまうなど、沢山のデメリットがあります。

犬の体を痛めるという点では、胴輪よりも首輪の方が首に圧力がかかることで眼圧が増加するため、特に角膜が薄い犬や緑内障などの犬には悪影響を与える可能性があります(Pauli et.al,(2006))。さらに、首輪によって気管を圧迫することが、気管虚脱という疾患の原因になると考えられています。

また、恐怖に起因する攻撃行動の対処に嫌悪刺激を用いることで、一見大人しくなったように見えても、単純に恐怖で身動きが取れない状態になってるだけで、犬の恐怖心を煽ると問題はさらに悪化します。

そして、犬のトレーニング中にショックを与える首輪を用いると、トレーニング中だけでなく、公園で自由に活動している時ですら、犬達に恐怖反応や痛みを感じている反応がみられるようになります。(Matthijs and Jaonne (2004))。

そして、やめさせたかった行動が、嫌悪刺激を与えることで逆に増えてしまう、という不思議なことも起きます。例えば、散歩中に嫌いな犬を見ると吠えかかる犬がいた場合。父親が、強く首輪にショックを与え、吠えを止めさせていたとします。しかし、同じ強さのショックを与えられない母親や子どもが散歩したらどうでしょう。犬は吠えかかるのを止めないどころか、逆に吠える事で嫌いな犬がいなくなることを学習してしまい、吠える問題が悪化するのです。

犬の散歩中などに、犬が苦しそうに呼吸をしたり咳き込んだりするのを見たことがないでしょうか。首輪に期待する効果の1つとして、『苦しくなることで引く力を弱める』、という意見がありますが、犬たちは苦しかろうが気になるものがあれば、そこに向かって行きます。

その理由の1つは、犬達が利他的な行動をする動物だから。

犬達は自分を犠牲にしても、群れの仲間のために行動をとり(包括)適応度を上げる動物です。例えば、群れの繁栄に欠かすことのできない食料を確保するための行動であれば、獲物を探す、追いかける、食らいついて仕留める、といった一連の行動の途中に多少の痛みを伴ったところで止めようとはしません。

目的はともあれ、犬は興味のある対象が目の前にあると、痛みとか苦しみ以上にそちらに向かって突き進む動物だということです。

犬のしつけには、モチベーションが関係してきますので、首輪であろうが胴輪であろうがどちらでも関係ありません。しかし、犬のしつけに用いる道具は、人が“らく”にコントロールできること、そして何より、首が圧迫されていても気持ち優先に前に進んでしまう犬の体に、これ以上の負担をかけないモノを選ぶことです。

もし、少しでも犬の呼吸が苦しそうとか、犬が咳き込む様子がみられたら、犬の首を圧迫から開放するために、幅のある首輪やハーネスに替えてください。そして、体の先端にリードがつけられるハーネスであれば、“らく”に犬の進行方向を変えることができます。

そして、人が“らく”になるということは、少しの力で犬の動きを止められるということ。つまり、年配の方やお子さんでも、あまり力を使わずに犬の動きをコントロールできるということです。

※(包括)適応度:「ある生物(個体)が生んだの子のうち、繁殖年齢まで成長した子の数」。 さらに、血縁関係、つまり遺伝的な関わり合いも含めると包括適応度と言われる。

参考文献
Amy M. Pauli, Ellison Bentley, Kathryn A. Diehl, and Paul E. Miller (2006) Effects of the Application of Neck Pressure by a Collar or Harness on Intraocular Pressure in Dogs. Journal of the American Animal Hospital Association: May/June 2006, Vol. 42, No. 3, pp. 207-211.
Matthijs B.H. Schilder, Joanne A.M. van der Borg (2003) Training dogs with help of the shock collar: short and long term behavioural effects. Applied Animal Behaviour Science: March 2004, Vol. 85, Issues 3–4, pp. 319-334

学術博士。 ドッグトレーナー(CPDT-KA)。 麻布大学介在動物学研究室(旧 動物人間関係学研究室)にて、学位を取得. 公益社団法人 日本愛玩動物飼養協会  スクーリング 講師(行動学)。主な著書、「動物看護の教科書」第4巻 行動管理・伴侶動物学 など。