子犬のお散歩はいつからはじめるの?! 〜怖い思いから立ち止まらない・引っ張らない犬にするために〜

家から一歩外にでると、車やバイクが走っていたり、工事現場や飛行機からの音が聞こえてきたり、そして「わー、可愛いぃ〜」と人に撫でられることもあります。どれもこれも子犬にとっては生まれて初めての体験ばかりで、全てが未知との遭遇です。

全ての体験が、子犬によって良い経験となれば良いのですが、強く「怖い」と感じた経験は、のちに「恐怖性攻撃行動」という問題行動の引き金なるため、気を付けなればなりません。(この行動は、怖いと感じる対象から身を守るために、吠えたり唸ったり、そして噛み付くことで「怖い」と思う対象を撃退したり、自分から遠ざけることを目的とした行動です。)

せっかくの犬との暮らしですから、散歩は上手に歩けて、さらにみんなと仲良くできようになって欲しいですし、ましてや他人に噛みつくような犬にはなって欲しくないですよね。ですから、子犬の頃から外に連れ出して、沢山の(社会的)刺激に慣らしていく必要があるのです。

では、子犬の散歩っていつから始めるのが理想的なのでしょうか。

子犬が成長する過程で、3~12週齢のまでの間を社会化期と呼びます。この時期は、同腹犬との遊びや親犬との関わり合いを通して、コミュニケーション能力を身につけていく、とても大切な時期です。また、触れ合った対象や場所などに愛着を形成しやすい時期なので、8週齢を目安に新たな家庭(飼い主)に生活の拠点を移すのが理想的です(犬の販売は、生後56日まで原則禁止/動物愛護法/2020年12月現在)。つまり、この時期から子犬の散歩の練習を始めるが理想的です。とはいうものの、まだ子犬ですから地面に下ろしたところで、あちこちにフラフラしてしまったり、怖くてその場でフリーズしてしまいます。

では、まった外に連れ出さない方が良いのかと言いますと、そうではありません。抱っこや、キャリーバッグに入れた状態で近所を歩くなど、徐々に人社会の刺激に慣らしていきます。過去の実験では、9~13週齢までが社会化の堺であると結論付けています(Freedman, 1961)。つまり、まだ幼い時期の子犬に多くの刺激を与えること。つまり、沢山の人に触れ合わせ、音を聞かせ、見せるという経験が犬の成長に影響を与えるということが分かります。(社会化:将来犬が群れを形成するため、そして群れの中で暮らすために必要となる社会性を身につけること。ここで指す『社会化』とは群れを形成する相手を認識し、愛着などを形成すること。さらに、犬はコンパニオンアニマルとして人と暮らす動物のため、群れを形成する人を認識し愛着を形成する必要がある)。

さらに、犬の行動の変化として、4ヶ月齢前後に新奇刺激に対して怖がる傾向がみられるようになり、6ヶ月齢頃になると成長が早い個体だと性成熟を迎えます。成長に伴うホルモンバランスの変化によって、縄張りを意識し始め、警戒で吠えるようになったり、マーキングをするようになったりもします。家のドアベルに吠えかなった個体が、強く吠えるようになるのはこの時期ぐらいからです。

つまり、犬の散歩デビューをスムーズにするためには、子犬が家に来た時から、外に連れ出す機会を作った方が良いということです。ただし、子犬を外に連れ出すには、ワクチン接種との兼ね合いが生じてきます。

子犬は、母犬の初乳を飲んだり、一部は母犬の胎盤を通して免疫力を得ることができます。しかし、この母親から移行された抗体は、時間の経過と共に失われていくため、子犬にはワクチンを接種する必要があります。

通常のワクチン接種は、2ヶ月齢前後に1回目、3ヶ月齢前後に2回目、そしてさらに4ヶ月齢前後に3回目のワクチンを接種することで基礎免疫力が備わっていきます。

なぜ4ヶ月齢までの間に3回のワクチン接種をするのかというと(最初のワクチン接種のタイミングによっては2回の接種となる)、母親から受け継いだ移行抗体がどれほど機能しているか分からないからです。つまり、母犬が抗体を持っていなかった場合や子犬が母犬の初乳をきちんと飲むことができていなかった場合、子犬が感染症に罹患する危険性が高まります。さらに、同腹犬であっても移行抗体にばらつきがあるため、最後のワクチン接種(16週齢以降)までの間に複数回ワクチン接種をすることが推奨されています(世界小動物獣医師会 : WSAVA)。

もし、移行抗体が体内に残っている場合、1、2回目のワクチンは、うまく機能していない可能性があります。しかし、母犬から抗体が移行されていない場合、ワクチンを接種しなければ、子犬の感染症リスクが高まりますから、子犬を病気から守るためにもワクチンを接種しておいたほうが良いのです。

そして、4ヶ月齢以降にワクチンを接種した後は、1年ごとに追加ワクチンを接種していきます。しかし、最近では抗体検査を行い、体内の抗体レベル(抗体価)を調べることで、ワクチンの追加接種の必要性を評価することができます。詳しくは、かりつけの動物病院の先生に確認してください。

子犬の行動の変化を考えると、8週齢頃から外に連れ出して可能な限りに刺激を与えることが理想的。だたし、ワクチン接種(感染症リスク)のことを考えると、4ヶ月齢以降の方が安全。となります。

では、どうしたら良いかというと、まだワクチン接種が済んでいない個体をどこに連れて行くのか、そして何と触れ合わせるのか、という課題がクリアさえすれば、8週齢頃から外に連れ出し、様々な社会的な刺激に慣らしていくのができます。

様々な刺激に慣らしていき、人社会の一員として暮らしていけるようにすることを社会化トレーニングと言います(犬の場合、家族以外にも人社会のありとあらゆる対象に対する社会化をする必要がある)。

ただし、感染症を考慮に入れて社会化トレーニングをするために避けるべき場所は、ドッグランなどの不特定の犬が集まる場所や野生動物がいる野山です。ドッグランでは、相手の犬がワクチンを接種しているか分からない点が問題となりますし、野山には犬にも感染する細菌やウィルスなどを保有している動物がいる可能性が高いことが大きな理由です。

それ以外の場所では、地面には下ろさずに、子犬を抱っこしたりキャリーバッグに入れたりして、駅前を歩いたり、工事現場で音を聴かせたり、ショッピングセンターに連れて行ったりと、成犬になった際にも訪れる可能性の高い場所に行き、沢山の刺激を与えていきます。

犬が散歩中に引っ張る理由は、いくつかあります。その多くは、興味を持った匂いや動いているものに対して近づこうとする行動ですが、その一方で、怖い対象を目にしたり、聞いたりした際、その場から逃げようとした時にも強く人のことを引っ張ることになります。

さらに、犬が怖がった際、人よりの後方に下がることで、首輪やハーネスが抜けてしまうことがあります。そのようなことが無いように社会化トレーニングを十分に行うことはもちろんですが、安全対策として犬が後ろに下がった時に抜けない道具を使うことをお勧めします。

私達が作った『らくらくハーネス』は、犬が後ろに下がったとしても抜けません(正常な使用方法であることが条件)。首輪やハーネスが抜けて逃げてしまった経験をお持ちの方は、是非一度『らくらくハーネス』をお試しください。

本日のお話は、動画でもご紹介していますので、是非ご覧ください。

著者:長谷川 成志(はせがわ まさし)

学術博士。 ドッグトレーナー(CPDT-KA)。 麻布大学介在動物学研究室(旧 動物人間関係学研究室)にて、学位を取得. 公益社団法人 日本愛玩動物飼養協会  スクーリング 講師(行動学)。主な著書、「動物看護の教科書」第4巻 行動管理・伴侶動物学 など。

参考文献

Daniel G. Freedman, John A. King1, Orville Elliot. Critical Period in the Social Development of Dogs. Science  31 Mar 1961: Vol. 133, Issue 3457, pp. 1016-1017

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