子犬から始めるべき3つの経験
犬に対して「いい子でいてね」とか、「ほら大丈夫」などと声をかけても、残念ながらその内容の意味までは伝えられません。
ですから、犬には下記のような経験をさせる必要があります。
「いい子でいてね」=何をしたらいいことが起こるの?(タイミングよく褒める)
「ほら大丈夫」=「これは平気」(と思えるような経験をさせる)
特に子犬にって、『これは平気』と思う経験の積み重ねは、これから人社会で共に暮らし、散歩などで外を出歩くことを考えると、とても大切なことです。
では一体、どのような経験を積ませていったら良いのでしょうか。経験させるべきたくさんの経験を挙げたらキリがないので、そのなかでも今回は、「これだけは」やっておいた方が良いこと3つに絞ってお話ししていこうと思います。
犬たちが、必ずお世話になるのは「動物病院」です。ワクチン接種だけでなく、ノミ・ダニや季節によってはフィラリアへの対処で動物病院に行くことになります。
ワクチン接種は、もちろん注射器を刺されますし、フィラリア予防のために投薬を開始する前には血液を検査します(通年で投薬を続けている場合を除く)。また、爪切りや耳掃除をされることもあるでしょう。
どれをするにしても、必ず保定といって犬の体を抑えた状態にして行うため、犬にストレスをかけることになります。
この時のストレスの感じ方は犬によって異なります。全く気にしない犬のいれば、奇声を発するとか脱糞してしまうほどのストレスを感じる犬もいます。
いずれにしても、犬にとって嫌な経験の積み重ねは、犬の攻撃行動に結びつきます。
犬の攻撃行動を、人と犬の上下関係ができてないから、と言う人もいますが、それは違います。特に動物病院などでの経験は、人を下に見ているから噛みつくのではなく、人に嫌なことをされるから自己防衛で噛みつくのです。
そこで大切なことは、下記の経験をさせることです。
動物病院で過ごす時間=好きな時間
つまり
ご褒美がもらえる場所
ただし、診察中の先生は忙しいので、全ての処置が済んでからご褒美を与えてもらえると良いでしょう。
そこで、診察中は先生の邪魔にならない程度にご褒美を与えていきます。この時のご褒美は、犬にとって好きなものを与えることです。好きなものであるほどに、動物病院が好きになっていきます。
そして、動物病院と同じように、保定をされる状態を経験するのがトリミングです。特に最近人気のトイ・プードルやミニチュア・シュナウザーは定期的にトリミングを経験することで、トリマーさんに対して唸ったり、噛みつくようんなってしまうことがあります。
そうなってしまうと、口輪をつけた状態でトリミングされるか、場合によってトリミングを断られてしまうというケースも出てきます。やはり、トミングサロンも動物病院と同じように、『ご褒美がもらえる場所』という経験をつませておいた方が良いといえるでしょう。
「古典的条件付け」って聞いたことがあるでしょうか。
犬にベルの音を聞かせる→ご飯を与える
これを繰り返すと・・・
ベルの音→ヨダレが出る
という反応が見られるようになるのが、古典的条件付けです。簡単に説明すると、犬にとって意味を持たなかった刺激が、意味を持つ刺激(生体の反応を引き起こす刺激)になる条件付けを古典的条件付けといいます。そしてこの条件付けは、「ヨダレが出る」、という体の反応だけではなく、犬の感情にも作用します。
つまり、動物病院で受けるありとあらゆる刺激が、ヨダレが出るほどに「嬉しい」という感情を結びつけることで、診察の時間や動物病院自体が好きになっていくというわけです。
本来の古典的条件付けは「ベル」の音のように、犬にとっては意味を持たなかった刺激に対して起こる条件付けです。ですから、「褒め言葉」の意味を教える際にも、同様の条件付けが起こっています。
「いい子」(褒め言葉)→ご飯を与える
これを繰り返すことで・・・
「いい子」→ヨダレが出る+嬉しい気持ちになる
ただ、犬が動物病院で受ける刺激は、意味を持たないものや嬉しいもの、そして嫌なものが含まれているため、シンプルな古典的条件付けとはいかないのですが、全ての刺激に対して、プラスの感情を結びつけておくことが、動物病院での攻撃行動の予防につながります。
そこで、犬にとって嫌なものであればあるほどプラスになるものを与えていきます。(例えば、普段与えているドッグフードがレベル+1ぐらいの嬉しさだとしたら、犬用おやつのチーズやジャーキーがレベル+4になるイメージ。それは犬によって異なります。)
嫌いな保定(レベル -4の嫌悪感) → 嬉しいご褒美(レベル +4以上)
これができて、±0の経験となりますので、もらえて嬉しいレベルが高ければ高いほど、動物病院で嬉しい感情を抱くことができようになるということです。ですから、犬がすきなおやつを与えることが必要になります。
元気な子犬ほど、よく物を噛んで破壊します。犬が、何かを口にして噛むのには、いくつかの理由が挙げられます。
・ヒマなので、何か刺激が欲しい。
・お腹が空いたので、何か口にしたい。
・歯の生え替わりによって、口がきになる。
犬によっては、壁紙をかじって破いたり穴を開けたり。そして、段ボールをかじって飲み込んでしまうこともあります。
しかし噛んだものが、犬の体に害になるものもありますし、飲み込んでしまうと命を落とす危険もでてきます。誤飲をした際には、「そのうちウンチと一緒に出てくるだろう」などと思わないで動物病院で受診してください。
特にプラスチック類は、小さな物であってもお腹の中を傷つけたり、お腹の中に蓄積されていくことで腸閉塞を引き起こし、容体が急変してしまうこともあります。
そこで、子犬の頃から下記の経験をさせたほうがいいでしょう。
噛んで欲しいものを、
噛む習慣をつける。
つまり
フードをコングに詰めて食べさせよう
コングでなくても、同じようにフードが詰められて、噛んでも壊れないもの使います。ただ、ゴム製品の匂いが嫌で、フードを入れても噛まない犬もいます。その際には、コングに匂いがつくようにコングをよく洗い、数日間ごはんの袋にいれておくなどの前処理をしてもいいでしょう。
犬は、生まれてから同腹犬とコミュニケーションをとることで、相手が示しているサインの意味を学習していきます。
そのため、適切な時期(生後8週齢頃)までは同腹犬と一緒に過ごさせてることが必要です。
そして、この経験がベースになって、他の犬とのコミュニケーションをとるのですが、フレンチブルドッグのように尻尾が動いているのかが分かりにくい犬種もいれば、柴犬の様に巻尾もいます。そして耳の形も様々で、大きく分けると垂れ耳、立ち見みであるのですが、その可動範囲は様々です。
様々な容姿の犬と沢山コミュニケーションを繰り返しとることで、相手が出しているサインを読み解く練習をすることができます。
ただその練習をさせるために、ドッグランに行くのは危険です。何故なら、他の犬に追いかけ回されてしまい、犬が嫌いになってしまうケースがあるからです。
それもそのはずで、成犬になるほどに落ち着きのない子犬をみると、動きを止めて静止させるようとします。もちろん、その感情を強く抱く個体とそうでない個体もいるので、一概にはいえませんが、その傾向は成犬になるにつれて強くなります。
成長につれてどのように行動の変化がでるかと言いますと、大雑把ではありますが下記のようなイメージです。
☆~6ヶ月齢頃まで
アクティブタイプ:他の犬と楽しく遊びたい
ネガティブタイプ:放っておいて欲しい・近づいてきて欲しくない
☆6ヶ月齢〜1歳頃
アクティブタイプ:異性が気になり、どちらが強いか試したい
(相手の出方次第では喧嘩に発展)
ネガティブタイプ:近づいてほしくないから吠える・噛みつく
☆1歳〜2歳頃
アクティブタイプ:落ち着いた状況を作るために、相手の動きを静止させたい
ネガティブタイプ:近づいてほしくないから吠える・噛みつくが強くなる
アクティブな性格なのか、ネガティブな性格なのかによって、他の犬に対する行動パターンが異なります。
また、相手の出方次第でネガティブだった犬も、徐々にアクティブな行動パターンも現れたりもします。しかし6ヶ月齢を過ぎてしまい、他の犬に対して強い警戒感を抱いてしまうと、吠えたり噛み付いたりしたことで、相手の犬を遠ざけることができたという経験をした場合、その犬の行動の選択肢に「吠える・噛みつく」が含まれてしまいます。
そのため、円滑な犬同士のコミュニケーションの経験をさせるには、おおよそ6ヶ月齢以前が良い、ということになります。
また、犬同士の体格差や相性を見ながらコミュニケーションを取らせることが大切となりますので、その犬の性格や成長ステージをよく見て、理解している専門家の指導のもとで、コミュニケーションを取らせることがとても重要となります。
そのため、行動の詳しいトレーナーがいる犬の幼稚園やパピークラスを利用すること間違い無いでしょう。
犬同士のコミュニケーションは、犬自身が学ものではありますが、どの犬とどのような遊ばせ方をさせるべきか、人が判断してその状況を作ってあげることが必要なのです。
もっとイメージを膨らませたい方は、YouTubeもご覧くださーい。
著者:長谷川 成志(はせがわ まさし)
学術博士。 ドッグトレーナー(CPDT-KA)。 麻布大学介在動物学研究室(旧 動物人間関係学研究室)にて、学位を取得. 公益社団法人 日本愛玩動物飼養協会 スクーリング 講師(行動学)。主な著書、「動物看護の教科書」第4巻 行動管理・伴侶動物学 など。
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