散歩の引っ張り今すぐ改善(犬の習性を知ろう)

散歩の引っ張り改善

散歩中に犬に引っ張られる、というのはとても歩きにくいですし、なんと言っても楽しくありませんよね。特に大型犬であれば、引っ張られることで手が痛くなってしまい、ますます散歩が億劫になってしまいますし、小型犬であっても足元をちょこまかと動き回られては、つまずきそうになってしまいます。

昔ながらの犬のしつけに対する考えでは、『犬が人のことを引っ張るのは、犬が人を下見にているから」と言われてきましたが、その考え方はとても古く、現在はそのように考えられてはいません。詳しくは、他のコラムに記載がありますので、そちらをご覧ください。

犬はそもそも、家の外に出て何がしたいのでしょうか。わざわざ人との順位をつけるために、人のことを引っ張っているのでしょうか。犬が外でしたいことは、本来の犬の習性を理解すればわかってきます。

・気になるモノのにおいを嗅ぎたい

・動くモノ(鳥、猫、落ち葉など)を見ると、追いかけたい

・排泄(マーキング)がしたい

・警戒するモノ(置き物、音、他の犬、見慣れない人)から逃げたい

・他の犬に出会ったら挨拶をしたい

野生下の犬の場合。寝床から出る目的は、縄張りのパトロールであったり、獲物を探す時です。どちらにしても、まずはにおいを嗅ぐことから始まります。縄張りであれば、においを嗅いでマーキング(排泄)をする場所を探しますし、獲物つまり食べ物であれば、口に入れられるもの探しまわります(これらの行動を個体探査行動という)。そして、獲物の特徴は「動き」ですから、動く対象をみかけるとすかさず追いかけようとするのです。これらは、全て周りの安全を確認しながら行いますから、少しでも警戒する対象を感じ取った瞬間にその場から立ち去ります。

 

また、家庭犬であれば、散歩中に出会った犬とコミュニケーションを取ろうとして近づきます(一方で、兄弟犬との十分な社会性を見つけられなかったり、他の犬が苦手になる経験をしたことで、近づかないことを選択する個体もいます)。これを、社会探査行動といって、犬が持つ行動パターンの1つです。

犬が散歩中にしたいこと、つまり犬が外でしたい行動の習性の中には、『人の横について歩きたい」というものは含まれていません。ということは、自分の横にいて引っ張らずに歩調を合わせて一緒に歩きたいと思っている人と、犬が外に出てしたいと思っていることには、大きなギャップがあるということです。

犬の学習原理は、大きく分けて2つです。1つ目が古典的条件付け、そして2つ目がオペラント条件付けです。古典的条件付けについては、他のコラムに記載していますので、そちらをご覧ください。

お散歩中に引っ張る頻度が増えるようになるのは、オペラント条件付けが影響しています。では、そもそもオペラント条件付けとはどのようなことを言うのでしょうか。

オペラント条件付けとは

刺激(食卓からいい匂いがした)→ 反応(吠える )→ 結果(食べ物もらえた)

この経験を繰り返すことで・・・

 

刺激(食卓からいい匂いがした)→ 反応(吠える )→ 結果(食べ物もらえた)

反応の頻度が増えていきます。

 

一方の結果として、吠えた後に食卓からお皿が落ちて驚いた、となれば反応の頻度は減ることになります。つまり、オペラント条件付けとは、結果が嬉しいものだと反応の頻度が増え、結果が嫌なことだと反応の頻度が減る、つまり反応の頻度を操作する<オペレートする>ことから、オペラント条件付けと言わています。

つまり、散歩中に人のことを引っ張るようになる学習は下記のようになります。

刺激(気になる匂いがした)→反応( 近づく) →結果( 気になるにおいが嗅げた)

この経験を繰り返すことで・・・

 

刺激(気になる匂いがした)→反応(近づく) →結果( 気になるにおいが嗅げた)

気になる匂いがしたら、そこまで近く頻度が増えるということになります。

つまりリードを持っている人が、犬が気になっている場所まで近づかせるような散歩をすることによって、気になるモノへ近づく頻度が増える、そして後にこの行動が、自分自身(人)のことを引っ張っている、と勘違いする原因となるのです。ということは、散歩中に引っ張られるようになったのは、自分自身(人)のせいだということです。

さたに、日頃の留守番が長いから散歩ぐらい自由に歩かせたい、犬はマーキングする動物だからトイレはあちこちでさせてあげたいという考えをお持ちの方もいらっしゃいます。しかし、この考え方が一因で、ペットが嫌いな日本人を作りだしているとしたらどう思いますか?

内閣府が調べた世論調査に、「動物愛護による世論調査(平成22年)」というものがあります。この調査の結果によると、『ペット飼うのが好きか、嫌いか』の質問に対して「好き」とする者の割合が72.5%(「大好き」23.4%+「好きなほう」49.1%),一方で「嫌い」とする者の割合が25.1%(「嫌いなほう」21.8%+「大嫌い」3.3%)という結果が得られています。つまり、日本人の4人に1人はペットにたいして嫌悪的なイメージを抱いているということが分かります。

さらに、『ペット飼育による迷惑』についての質問をしたところ、「散歩している犬のふんの放置など飼い主のマナーが悪い」を挙げた者の割合が55.9%と最も高い結果となりました。

地域によっては、いまだに犬のウンチがそのままにされていたり、人の家の壁に向かってオシッコをかける犬もいます。つまり、散歩中の飼い主のリードの持ち方一つ、考え方一つで散歩中の引っ張りだけでなく、ペットに対する印象を悪くしているということです。

このような状態では、いくら災害時にペットとの同行避難をうたわれていたとしても、それを受け入れる側(各自治体)の立場になってみてください。ペットが嫌いな人への配慮も考えると、とても悩ましい問題になります。特に犬は散歩にでかけ、沢山の人の目に触れる機会が多い動物ですから、同行避難時の受け入れをスムーズにするためには、ペットが嫌いな人の印象を変えるぐらいマナーを考慮した散歩が求められているのです。

お散歩を上手にするためには、『自分の横について歩いて欲しい人』 v.s 『においを嗅ぎたい・動くモノを追いかけたい犬』、この両者の気持ちのギャプを埋めていかなければ、上手な散歩をすることはできません。

上手なお散歩をするためのポイント

ポイント1:引っ張り防止ハーネスを使う

ポイント2:リードを短く持つ

ポイント3:散歩中、におい嗅ぎをする時間を作る

ポイント4:何かを追いかけたい欲は、遊びを通して満たす

ポイント5:トイレは散歩の行く前に済ませる

これらのポイントと順番に説明していくと

ポイント1:引っ張り防止ハーネスを使う

大型犬になると、オペラントによる学習以前の問題で、引く力が強い、ということが挙げられます。そこで、人にとっては少しの力で、犬が前に引っ張れない、つまり動きを止められる道具を使う必要があります。さらに、その道具は犬の体に負荷をかけない、痛みを与えない、そして違和感が最小限に抑えられてものがオススメです。

ポイント2:リードを短く持つ

引っ張り防止ハーネスを使ったとしても、リードを長くしていまい、犬が行きたい場所まで近づかせてしまうと意味がありません。そこで、犬との一定の距離を保つ必要がありますので、リードは少し緩むぐらいの場所を持つ、つまり短く持つことが必要になります。

そして、オペラント条件付けを利用して、人の側で歩いている頻度を増やすために、散歩中は人の横を歩いている時に褒める必要があります。

ポイント3:散歩中、におい嗅ぎをする時間を作る

もちろん、犬たちの欲求を満たす時間も作っていく必要がありますから、他人の迷惑にならない場所を選び、そして十分ににおい嗅ぎをさせる時間を作ります。またこの時、一旦、オスワリの指示を出してから「フリー」などと、決まった掛け声をかけるようにするだけで、におい嗅ぎを始める前に座るようになるだけでなく、におい嗅ぎを始める合図を学習をしていきます。

 

ポイント4:何かを追いかけたい欲は、遊びを通して満たす

軽い運動(遊び)をするだけで、お散歩中の引っ張りが軽減されます。多くの飼い主が、『お散歩=犬の運動』と考えています。もちろん、散歩は軽度な運動になりますが、広大な大地を走って獲物を捕らえていた犬にとっては、『瞬間的に走る』、という運動が必要です。

犬と一緒の走る(ジョギングする)人もいますが、獲物を探して、走って捕らえて、振り回して仕留める、という生得的な行動は満たすことはできません。犬との遊びは、あまり興奮させ過ぎないこともポイントになりますが、まずは無理のない範囲で一緒に遊んであげてください。

ポイント5:トイレは散歩の行く前に済ませる

犬にトイレの合図をかけると、排泄をするようにトレーニングすることができます(詳しくは、下記の「トイレのしつけ」動画を参照してください)。トレーニングしておけば、雨の日や雪の日にトイレのためだけに外に出る必要もなくなります。ただ子犬の頃からの習慣づけがとても重要となってきますので、成犬になってからトイレの合図を教えるのはとても時間がかかります。

もし成犬でトイレは散歩中でないとしない場合には、先ほどのにおい嗅ぎさせる場所で、トイレも済ませるようにしましょう。また日頃から、犬がトイレをしそうになったらトイレシートを敷き、その上で排泄をするようにすると、周りに対する配慮にもなります。当たり前ですが、誰だって犬がオシッコやウンチをした芝生の上に座りたいとは思わないはずです。近所でにおいを嗅がせる場所が、公園しかない際には、是非実践するようにしてください。

 

YouTube動画では、これまでのお話をまとめて動画となっております。しかも、クイズをしながら犬の習性を学んでいく内容になっていますので、是非ご覧ください。

☆トイレトレーニングについての動画こちら↓

著者:長谷川 成志(はせがわ まさし)

学術博士。 ドッグトレーナー(CPDT-KA)。 麻布大学介在動物学研究室(旧 動物人間関係学研究室)にて、学位を取得. 公益社団法人 日本愛玩動物飼養協会  スクーリング 講師(行動学)。主な著書、「動物看護の教科書」第4巻 行動管理・伴侶動物学 など。